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配偶者居住権を利用する目的
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人が亡くなった場合に、残された配偶者がその家に引き続き住み続けることができる権利のことをいいます。亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまで又は一定の期間、無償でその家に住むことができます。居住することができる権利です。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて考え,残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても、一定の要件の下、居住権を取得することで、被相続人が所有していた家に引き続き住み続けられるようにするものです。
またそのことによって、残された配偶者の老後の生活資金を確保しやすくなります。
実際に利用されている件数ですが、令和2年4月に導入され、令和3年の1年間における配偶者居住権の設定の登記件数は880件、令和4年は892件となり、令和5年は前年比19件増加の911件となったそうです。
配偶者居住権新設の背景
配偶者居住権は、令和2年4月1日に施行された改正民法によって新設されました。新設の背景には、超高齢社会の進展とともに平均寿命が長期化したことによって、相続開始時点において相続人となる配偶者の年齢が高齢化していること、そのことにより配偶者の居住の確保をする必要があります。
残された配偶者としては、長年住み慣れた家に住み続けることが望ましいとされています。しかし、その家の所有権が被相続人の者であった場合には相続の対象となり、残された配偶者が住み続けるには相続で所有権を取得する必要があります。
配偶者居住権が活用した方がよい場合
①自宅以外に相続財産がない
相続財産が被相続人の実家のみというケースでは、配偶者居住権を活用することによって相続トラブルを防止できることがあります。
被相続人が亡くなり、相続財産がほぼ自宅のみであった場合、配偶者が自宅を相続すると、他の相続人には財産は残りません。他の相続人に遺留分の権利を行使されることも考えられます。また配偶者が現預金等を相続できない場合は、当面の生活資金に困窮することも考えられます。
このような場合に配偶者居住権を活用することによって、自宅の不動産の権利を所有権と居住権に分けて考えることによって、それぞれに経済的財産的価値があるため、居住権を配偶者、所有権を子供が取得すると、公平性が保たれ遺産分割協議が円滑に進み、遺留分の侵害に対するリスクも回避することができます。
②相続税を節税したい
配偶者居住権を適用すると、相続税を節税することができます。
配偶者居住権は相続できません。配偶者居住権を持つ配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅するため、二次相続では配偶者居住権分の相続税が非課税となります。
たとえば、3,000万円の自宅を居住権2,000万円、所有権1,000万円に分けると、配偶者が亡くなったときは所有権分の1,000万円が自宅の相続税評価額になります。
配偶者居住権の目的は住居に引き続き住み続けることができる権利を確保するものですが、状況によっては節税になることもあります。
③配偶者居住権が適用しない方がよいケース
配偶者居住権は家に住む権利なので、残された配偶者が自宅に長く住むつもりではない場合や、長く住むことができない場合は適用しない方がよいとされています。
配偶者が介護をしてもらうために子の家に移る予定がある場合や配偶者が介護施設等に入所する予定がある場合が想定されます。
配偶者居住権は配偶者だけに与えられた権利ですので配偶者居住権を第三者に売却することはできません。
また所有権ではないので自宅を売却することもできません。
配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権が成立するためには、法律上の配偶者が被相続人が所有していた建物に、被相続人が亡くなったときに居住していたことが必要です。
また遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を設定します。
配偶者短期居住権との違い
配偶者短期居住権は、「遺産分割により建物の帰属が確定した日」または、「相続開始のときから6カ月を経過する日」のいずれか遅い日までに限って認められる権利です。
そして配偶者短期居住権は、法律の要件を満たすことによって自動的に発生する権利となっていますが登記をすることができません。
配偶者短期居住権は、相続開始の時に自宅から退去をすることを前提に住み続けるという場合に適しています。
まとめ
配偶者居住権は自分以外の人が所有権を持つ家に住み続けることになりますので、その使用や管理に注意する義務(善管注意義務)が発生します。また所有者の同意なく賃貸したり、建物の増改築を行うことができません。
そのような制限がありますが、残された配偶者が自宅で暮らし続ける権利を守る制度となっています。
配偶者居住権を設定する際には、家族関係の状況、財産の状況なども考慮し、十分な検討が必要となります。
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