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認知症による預貯金の口座凍結の3つの対策

社会の高齢化に伴い、認知症の方は増加傾向にあるそうです。

このことが社会問題となっている昨今ですが、認知症になると銀行の預金口座が凍結されることがあります。

金融機関が本人の意思確認ができないなど、判断能力が著しく低下していると判断した場合に預金口座が凍結されます。

預金口座が凍結されるとお金を引き出すことができない状態になります。

認知症で判断能力が低下すると、行おうとする取引の内容を理解できないまま不要な契約をしてしまったり、他人にだまされたりするリスクがあります。 こうしたことを防ぐために、口座を凍結する措置を取るのです。

認知症による口座凍結とは

金融機関に認知症と判断されると、預金口座が凍結されお金を引き出すことができなくなります。

口座凍結がされてしまうと、本人だけではなく、同居の家族であっても代理人として引き出すことができません。

親が認知症になったために同居している家族が介護や生活に必要となるお金を引き出すことができずに困ってしまうことが考えられます。

口座を凍結されるとどうなるのか?

預金口座が凍結されると、預金の入出金や定期預金の解約ができなくなります。

家族が親の介護や生活などに必要な当面の費用を確保するために親の定期預金を解約することや不動産の売却することなどができなくなってしまいます。そうなるとその費用は家族が立て替えるしかありません。とうなった場合、家族の生活をおびやかすことにもなりかねません。

認知症と判断されると証券取引用の口座も凍結されます。証券取引用の口座が凍結されると株式などの証券を売買することができなくなります。年金に頼らずに老後を過ごすための生活資金として株式を運用しているのにいざ必要なときに売却して生活資金にすることができないことになります。

預金口座が凍結されてしまうタイミング

口座が凍結されるタイミングは、口座名義人である本人が認知症となり判断能力が低下していると金融機関が判断したときです。

金融機関が本人が認知症にかかっていることを知ってしまった時や、本人が金融機関に出向いたときに認知症と疑われる行動を取った時などに口座が凍結されることがあります。

逆に言うと認知症の診断を受けただけでは、金融機関が直接知ることはありませんので、口座がすぐに凍結されることはありません。

認知症になると口座が凍結されてしまう理由

金融機関が口座名義人である本人が認知症であることを判断したときに口座を凍結する理由は本人および本人の財産を守るためです。

銀行は、お金を安全に保管・管理したり、お金を貸し出す役割があります。その役割によって火災や盗難などのリスクを回避することができます。

本人の判断能力が低下したときに、悪徳商法などの詐欺や横領などの被害に遭ったり、家族が本人の預金を自身の利益のために引き出したりするリスクがあります。

金融機関は本人がこうしたトラブルに巻き込まれないようにするために預金口座を凍結し、預金を引き出せないようにします。

認知症で口座凍結されてしまった場合の対策

認知症で本人の判断能力が著しく低下してしまい金融機関に認知症と判断され預金口座が凍結された場合、原則、成年後見制度(法定後見)を利用して、本人の預金を引き出せるようにします。

「成年後見制度」とは、精神上の理由により判断能力に欠ける、あるいは不十分な人(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者のほか、自閉症の人々、事故などによる脳の損傷、または脳の疾患に起因する精神上の障害を持つ人々等も含む。)を保護・支援するために援助者を選任して、契約の締結等を代わって行ったり、本人が誤った判断に基づいてした行為を取り消したりして、本人を法律的に支援する制度です。 契約の締結等の法律行為における意思決定が困難な人々のため、その不十分な判断能力を補い、本人が損害を受けないようにし、本人の権利が守られるように選任された援助者が、その財産管理と身上監護を通じて本人を保護することを目的としています。

法定後見とは、本人の判断能力が低下してしまった方、または判断能力が不十分な方を保護し、支援する制度です。

認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が衰えた方は、日常の生活においてさまざまな問題に直面します。預貯金や不動産など自身の財産を管理することが難しく、介護や福祉のサービスに対して自分で適切な契約ができなかったりします。またこのような方を対象にした悪質商法による被害に遭うことが考えられます。

家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。

法定後見制度のデメリット

法定後見制度には以下のデメリットがあります。

①本人や家族が希望する方が法定後見人にならない可能性がある

法定後見人の選任では、法定後見人の希望を裁判所に伝えることができます。しかしながら本人や家族が希望する法定後見人にならないこともあります。法定後見人は、家庭裁判所が選任をします。民法での欠格事由に該当する人物でなければ、だれでも法定後見人になることができます。法定後見人に特別な資格は不要です。しかし、親族を法定後見人の候補者として申立てをしても、最終的には家庭裁判所が判断をします。被後見人の所有財産が多額である場合や、家族間トラブルがあるような場合には、裁判所は、法律の専門家である弁護士や司法書士を選任する傾向にあります。

②申立て費用や後見人報酬が発生する

家庭裁判所に後見等開始の申立てを行う場合と後見業務が開始されてから以下の費用が発生します。 ・申立てから後見人等が選任されるまでの手続き費用 申立てから後見人等選任までの費用 ・後見人等の報酬(制度利用中は常時発生) 成年後見制度の申立費用は、成年後見制度を利用する本人ではなく申立者が負担します。 しかし、成年後見制度の利用が開始された後に、申立者は制度利用者本人に対してかかった費用を請求可能です。 成年後見制度の利用は申立者本人の利益につながる行為ではなく、制度利用者本人の利益につながる行為だと考えられるからです。

③成年被後見人の財産を自由に使うことができなくなる

成年被後見人の財産は保全の対象となります。したがって自由な運用や活用および処分(売却)はできなくなります。当然に、相続税対策としての生前贈与も認められません。 成年後見人は、成年被後見人の財産に関する様々な契約や手続きを代理する権限を与えられています。 そして成年後見人は、本人の利益のために本人の資産を使う法律上の義務があります。

④法定後見が不正を起こすことがある

家庭裁判所が公開している情報では、後見人等による不正事例において、令和5年では184件、約7億円の被害額となっています。専門職の内数になると令和5年で29件、約2億7千万円となっています。後見人による不正の大半は親族後見人によるものとなっています。 このようなことから成年後見制度においては後見人による不正が起こらないように対策が講じられていくのですが、家庭裁判所が適切に監督権限を行使させることが有効になります。 成年後見制度において、成年後見人と共に成年監督人が選任されることに納得しますね。 また専門職が選任されることが増加傾向にあることも理解できます。

④原則として途中でやめることができない

一度、成年後見制度を利用すると途中でやめることはできません。医者が書いた診断書で障害や症状の回復が認められて家庭裁判所で成年後見の取消が認められるとやめることができます。

多くは、後見制度を途中でやめることができずに、被後見人が死亡するまで続くことになります。

事前対策が必要

そのため認知症になる前に事前対策をして、法定後見制度の利用は避けるのが望ましいです。

認知症による口座凍結の事前対策

金融機関に本人が認知症と判断されてしまった場合には原則、法定後見しか対策できないため、事前の対策が必要となります。

事前の対策には以下3つの方法があります。

任意後見制度を利用する

今は、健康で一人でなんでも行うことができても、将来、判断能力が衰えてしまうことは誰にでも可能性として存在します。そこで、自分自身が元気なうちに、この先あれこれ決められなくなる前に、将来の支援者と支援の内容をあらかじめ定めて自分らしい生き方を自ら決めるための契約をしておくのが任意後見制度です。

後見人は、本人のために適切な財産管理を行うことができます。

本人のために預金口座を利用して支払いをしたり、収入を受け取ったり、財産の管理を行います。

任意後見制度では法定後見制度と異なり、本人の希望する後見人を選任することができます。

本人が信頼する方を後見人として指定できるため、本人のニーズに合わせた財産の管理・処分をすることができます。

本人が認知症になって判断能力が低下したと判断されても、任意後見人に財産に関する事務について契約がされている場合、金融機関に対して口座凍結の解除を代理人として権利行使することができます。

ただし任意後見制度は、任意後見を開始するには家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要であったり、任意後見監督人の選任にあたり家庭裁判所が関与したり、任意後見監督人に報酬の支払いが発生したりするので注意が必要です。

任意後見監督人が選任される仕組みになっている理由は、任意後見が開始されるのは本人の判断能力が低下してからなので、任意後見人が不正を行ったり、必要な事務を怠ったりしたときに本人がそのことをコントロールすることが困難なため、家庭裁判所が任意後見監督人を介在させてそのような行為を制御する必要があるからです。

生前贈与をする

本人が生きている間に、財産を家族や別の誰かに贈与できるのが生前贈与です。

生前贈与は贈与する相手方は家族・親族だけでなく、血縁関係のまったくない第三者でも可能です。

本人の判断能力が低下したと金融機関が判断し、本人の預金口座を凍結したとしても生前贈与を行っていたら本人の預金はすでに家族・親族または第三者に贈与された後となります。

ただし生前贈与では、財産を受け取った受贈者に贈与税が発生したり、生前贈与と認められず後から相続税がかかったり、相続発生前7年以内の贈与には相続税がかかったりしますので注意が必要です。

贈与契約は、「あげます」「受け取ります」という双方の意思の合致が必要です。口約束でも成立しますが、契約書や振り込みをした事実を記録として残しておかないと第三者に証明することができずに贈与と認められない場合があります。

家族信託を利用する

家族信託とは、財産管理方法のことをいいます。

自分の財産を特定の目的に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。

人は、高齢であることや病気になるなどさまざまな理由で、自分自身で財産を管理することが難しくなってしまうことがあります。

自分に代わって、判断能力のある家族に管理してもらうことで、自分の財産を無駄にすることなく、効率的に管理をすることができます。

家族信託を行うことによって、認知症による口座凍結の対策をすることができます。

家族信託の仕組み

家族信託は財産の管理、運用を信頼できる家族に託すことなのですが、これらは「委託者」「受託者」「受益者」の三者で構成されます。

・「委託者」とは、財産を信託する人です。

・「受託者」とは、委託者から信託された財産の管理、運用および処分を任される人です。

・「受益者」は、信託された財産より生ずる経済的利益を受ける人です。

委託者が自身が所有する財産の管理を受託者に任せ、その財産を受託者が管理、運用、処分し、その財産から発生した利益を受益者が得る仕組みになっています。

家族信託では親のために子どもが財産を管理します。財産管理により生じた利益は所有者である親が得ることになります。委託者と受益者は親であることがほとんどです。

家族信託では、財産管理の方法について成年後見制度よりも柔軟に取り決めをすることができます。

家族信託のメリットとデメリット

家族信託のメリットとデメリットは以下になります。

①家族信託のメリット

・成年後見制度よりも柔軟に委託財産の管理をすることができる。

・親が認知症になったときの口座凍結の対策となり得る。

・遺言書としての機能を果たすことができる。

・二次相続の財産の承継を委託者の希望通りに行うことができる。

・相続人が認知症や障害を持っていても安心できるように財産管理のみならず財産管理の仕組みを残すことができる。

②家族信託のデメリット

・すでに親が認知症になると信託契約を結ぶことができない。

・成年後見制度のような身上監護ができない。

・相続税の節税となるわけではない。

・受託者の財産管理に相当な負担がかかる。

・所得税の申告上、損益通算ができないという制約がある。

・新しい制度のため、家族信託に精通した専門家が少ない。

まとめ

金融機関に認知症と判断されると、預金口座が凍結されお金を引き出すことができなくなります。

口座凍結がされてしまうと、本人だけではなく、同居の家族であっても代理人として引き出すことができません。

親が認知症になったために同居している家族が介護や生活に必要となるお金を引き出すことができずに困ってしまいます。

認知症になる前に事前の対策をすることが必要です。

家族関係の状況、財産の状況なども考慮し、場合によっては専門家に相談することをおすすめいたします。

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著者行政書士浜田政克
浜田政克行政書士事務所
(大阪府豊中市)

自身の相続に係わる経験から一念発起し、豊中市東豊中町にて行政書士事務所を開業。
遺言作成、相続手続きサポート、成年後見を中心にお客様に安心してご依頼いただけるワンストップサービスを行っております。
情報セキュリティ、個人情報保護法に精通し、「デジタル社会に迅速に対応できる法律家」として日々研鑽を積み重ねております。

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